山形大学地域教育文化学部生活総合学科生活環境科学コース地学(川辺)研究室

平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震に関して



山形大学地域教育文化学部生活総合学科生活環境科学コース 川辺孝幸
HomePage:http://kescriv.kj.yamagata-u.ac.jp,   E-mail:kawabe@kescriv.kj.yamagata-u.ac.jp,kawabe@jan.ne.jp
2011年3月12日公開(2011年04月24日23時00分更新

山形県内の被害地震動@天童市長岡北2丁目震央分布強震動被害津波被害津波被害地の土地利用の変遷


 平成23 年3 月11 日14 時46 分頃,三陸沖で巨大な地震が発生し,数分間大きな揺れが続くとともに,10mを超す巨大な津波が発生し,東北地方〜関東地方の海岸部にかけて,甚大な被害が発生しました.
 この三陸沖で発生した地震について、気象庁はこの地震を「平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震(The 2011 off the Pacific coast of Tohoku Earthquake)」と命名しましています(気象庁,2011).
 この地震と津波によって被害に遭われた方々に,お悔やみ・お見舞い申し上げるとともに,一日も早い復興をお祈り申し上げます.


【山形県内の被害調査報告】



【本震の地震動@天童市長岡北2丁目】

 山形盆地の揺れやすさについては,
こちらをご覧ください.

 山形県天童市長岡北2丁目において,madlabo製 GID-SSS 加速度地震計によって1600SPSでサンプリングした,本震発生後,停電するまでの22秒間の波形データを,viewwaveにて100Hzで平均化してレポート出力したものです.

 地震動は,山形では数分間続きましたが,体感的には,P波がやってきた後,S波とP波が渾然一体となったような揺れが続いていました.最後の方は,”うなり”のように強くなったり弱くなったりして,次第に弱くなっていきました.
 地震動の最後の方は,おそらく,幅約10kmの山形盆地の中を,あたかもプッチンプリンがプルプルするように,表面波が行ったり来たりして,軟弱な盆地埋積層が揺れていたと思われます.
 地震動の前半の方は,実際に,地震を起こした断層面がバリバリと我ながら広がっていく際の,バリバリと割れる割れ目の先端が移っていくことによる,と考えられます.

 下の図でも,停電するまでの22秒間の記録ですが,波形でも,P波とS波が重なって射るように見えますし,スペクトルでも,いくつかピークが見られます.



 この図の元データ(viewwqveで書き出したもの)は,こちら
 ・LZH形式で圧縮,約1.1MB.
 ・最初の2行はヘッダーです.
 ・一行に,シーケンシャル番号,NS,EW,UDの準に,4つのデータが並んでいます.

●自宅の地質情報
 自宅は,立谷川扇状地の扇端付近に位置しています.以下は,自宅を建築する際に調査を行った結果です.   
  • 川辺孝幸(1998)宅地の地質環境調査とその対策の例.環境地質シンポジウム論文集,8, 265-270.
      
  • 川辺孝幸(1998)住宅の地盤と河川堆積相.地学団体研究会総会講演要旨集,55, 68-71, 265-270.


    【震央分布】

     以下は,東北地方〜関東地方の震央分布を示した図です.
     左は1997/10/01〜2011/02/28の震央分布を,中央は,2011/03/01〜2011/03/11の本震発生までの震央分布(2011/03/09に比較的大きな地震が発生),右が2011/03/11 14:46:13の本震発生以降の震央分布を示した図です.

     データは,1997/10/01〜2011/02/04は気象庁一元化震源データ,2011/02/05〜はM3以上の気象庁一元化震源データ(株式会社 まえちゃんねっと による
    震源DB(From JMA)のリスト)を使用しました.

     1997/10/01〜2011/02/28  2011/03/01〜2011/03/11本震 2011/03/11本震〜2011/03/14

    ●2011年03月01日〜03月12日の震央分布アニメーション

     2011年03月01日〜03月12日の震央分布の時系列アニメーションです.
     GIFアニメーション形式で,約21.5MBのファイルサイズになっています.

      2011年03月01日〜03月12日の震央分布の時系列アニメーション

    ●参考:川辺孝幸(2009)



    【強震動被害】

     家屋やビルなどの構造物の倒壊など,強震動による被害に関しては,津波被害が顕著なため,現在のところ,あまり報道されていません.
     筆者が,石巻インターの手前で地震に遭遇した,向かいのご主人から聞いた話では,仕事で山形を13時半頃に出発して,ちょうど石巻インターの直前で,周りの家がばたばたと倒壊し,ハンドルがぐらぐらになったそうです.インターから出て,下道で倒壊家屋の中を抜けて(どの範囲が倒壊していたのかは聞いてない)帰ってきた,ということです.なお,愛子まで来たのが21時頃.23時過ぎに無事戻られました.
     実際には,ご主人の話のように,津波にさらわれる前に,強震動によって家屋が倒壊した例が,どのくらいかの割合であったのかもしれません.

    山形県東村山郡中山町長崎の被害

     奥羽山地を挟んで内陸側の山形県内では,尾花沢市若葉町,東村山郡中山町長崎,上山市河崎,米沢市林泉寺など,尾花沢盆地や山形盆地,上山盆地などの内陸盆地でも,震度5強の強震動が計測されています.
     これらの内陸盆地には,山形盆地で典型的なように,盆地内には泥質堆積物が発達していて,盆地内の泥質堆積物が揺れることで強震動が起こったと考えられます.そしてその結果,実際に被害が発生しています.
     中山町長崎では,倒壊を含む建物,国道112号の路盤変状,お寺や個人のお宅の灯籠や墓石の転倒などの被害が発生しています.
     詳しくは,こちらをご覧ください.





    【津波被害】

     今回の地震による被害の特徴は,津波による被害です.
     これまで,津波は,平野部では起こりにくく,リアス式海岸の湾奥部で起こりやすいと言われていました.
     しかし,今回の地震では,リアス式海岸の湾奥部だけでなく,平野部でも7.5mを超す津波が,海岸から6km前後離れた陸地の奥まで到達しました.

    ●東北地方南部の地形(0-10mを等高線1m間隔で表示)
     左の図は,東北地方南部の地形(0-10mを等高線1m間隔で表示)で,右の図では,2011/03/01〜2011/03/12の震央分布も示しています(本震は星印)

        

    仙台平野主部における微地形と津波の到達範囲の概略
     左の図は,国土地理院2011年3月12日撮影の空中写真をもとに,仙台平野主部における津波の到達範囲の概略を示してあります(青線).地形図は,地形図は,国土地理院発行2.5万分の1『仙台西南部』,『仙台東南部』,『岩沼』,『仙台空港』,『亘理』,『荒浜』,陸軍陸地測量部発行2万分の1『仙臺南部』,『原町』,『増田』,『閑上』,『岩沼』,『矢目』,『亙理』,『矢目』を使用しました.
     微地形は,2万分の1地形図に示される, 水田を緑に, 湿地を青に, 畑地・集落, 林などを肌色で示したもので,厳密には土地利用を表している,ということになります.微地形要素としては, 前者には, 堤間低地, 放棄河道, 谷底平野などが, 後者には,自然堤防, 砂丘(浜堤), 人工盛土などが含まれます.  この図からは,西から流れてくる河川が,仙台平野に入って,名取川および広瀬川では複合扇状地を,阿武隈川も河川の形態としては蛇行河川ですが,放棄河道とその両側の自然堤防,越流堆積物(スプレッドシート)などで,沈降域特有の扇状地をつくっていることがわかります.
     また,扇状地や丘陵の張り出しの間の低地には,内陸約5km程度の標高約3.5m付近まで,4列程度の砂丘列が認められます.

     浜堤・砂丘の破壊は,河川の河口部やラグーンのインレットの部分で起こっていることがわかります.
     津波は,概ね,海岸線から3〜5km内陸の,ほぼ,扇状地の扇端部の手前や,海側から3番目の砂丘列の手前までの,標高2.5m〜3.5m程度の範囲まで到達したことがわかります.
     しかし,津波の到達距離・標高は,等高線に斜交する範囲も多く,必ずしも自然地形に対応しているわけでありません.むしろ,盛土になっている仙台南部道路の高まりが堤防の役割を果たして,津波の勢いを押さえているように見えます.
    (空中写真判読:佐々木 愛・川辺孝幸・大沼由佳,作成:川辺孝幸)


     2011年4月23日版更新:仙台東部道路の開口部を記載(オレンジ:高架部,黄色:道路・用水のボックスカルバート)

     この図の大きいイメージはこちら(3.1MB)
     この図のPDF版はこちら(2.0MB)


    仙台平野南部〜南相馬の津波の到達範囲の概略
     左の図は,国土地理院2011年3月12日撮影の空中写真をもとに,仙台平野南部〜南相馬における津波の到達範囲の概略を示してあります(青線).地形図は,地形図は,国土地理院発行2.5万分の1『仙台西南部』,『仙台東南部』,『岩沼』,『仙台空港』,『亘理』,『荒浜』,陸軍陸地測量部発行2万分の1『角田』,『山下』,『丸森』,『新地』,『青葉』,『相馬中村』,『磐城草野』,『磐城鹿島』,『南海老』,『小宮』,『大甕』を使用しました.

     松川浦より南の地域では,津波は,各河川の沖積平野を遡上して,標高10m〜15m前後まで侵入していますが,最終的には,JRや国道の盛土が津波に対する防波堤の役割を果たしているようです.しかし,道路自体は津波による冠水を免れたものの,仙台東部道路と同様に,用水や河川の橋,ボックス・カルバートが侵入路となって,用水を遡上した津波が溢れていることが多いようです.
    (空中写真判読:佐々木 愛・川辺孝幸,作成:川辺孝幸)



     この図の大きいイメージはこちら(4.5MB)
     この図のPDF版はこちら(1.5MB)

    ●津波(Tsunami)は,「水の層の撓曲(;とうきょく)」

     津波とは,「津=港」の「波」と書きます.
     「波=wave」は,水の震動(円運動)が伝わって来るものです.沖合いから海岸に向かって海底は浅くなりますが,波の大きさは,海底が浅くなると,大きくなり,やがて海岸で,陸側に打ち上がります.波の場合,海水は円運動をしているので,海岸での陸側への進み具合は波の大きさに応じて変わりますが,基本的には,その波の大きさと海岸地形に応じた距離しか陸側に進みません.

     しかし,地震や山崩れ・雪崩の時などに起こる「津波」は,このような通常の「波」の運動ではなく,海水全体が移動するために起こるものです.
     山崩れの場合には,海水や湖水に進入してきた山崩れや雪崩の物体によって押しのけられた水が,移動することで起こります.
     地震の際の津波は・・・海底面の地下で起きた断層や撓曲(地層が切れたら断層ですが,切れずに曲がっているだけの状態)が,そのまま水の層にまで伸びて生じた,いわば水の層の撓曲による変形によって起こる,ということができます.
     すなわち,海底面に現れた断層(撓曲)が,水の層まで伸びて変形を及ぼします.  その際,断層(撓曲)の運動は,下の図のように,海底面までは垂直な運動の断層でも,地表面(水面)に向かって,断層の傾斜は,次第に低角度に変わっていきます.そして,運動方向も,断層付近では,その断層面に沿った方向に変わっていきます.断層を境に,相対的に上昇する側の地表面(水面)は盛り上がりますが,このように,単に盛り上がるだけでなく,相対的に沈下する側に向かって進む運動が起こります.


    垂直の断層運動にともなう被覆層の変形のモデル実験

    垂直に被覆層の下まで伸びてきた断層が,被覆層に入って地表面に近づくほど,低角度に寝るようになる.断層の上昇側は,断層面に沿って次第に水平方向に運動する.断層の真上の地表付近は盛り上がりによって引っ張りの力が働き,正断層群ができて陥没する.海水の場合には割れずに凹み,凹みを埋めるように水が周囲から移動してくる...
    青森県六ヶ所村,日本原燃ウラン濃縮・使用済み燃料再処理施設近くの活断層〜活撓曲の露頭写真

    逆断層は,地表に近い部分では,ほぼ水平近くまで低角度になる.断層直上の地表付近では,向かい合う正断層群があり,引っ張りの力で陥没したことがわかる.
    三重県伊賀市喰代の,基盤の領家帯片麻岩〜鮮新統の古琵琶湖層群上野累層を切る断層〜撓曲の露頭スケッチ(川辺,1990)

    基盤の領家帯片麻岩では逆断層であるが,不整合に重なる古琵琶湖層群では,より低角度に変わっていき,層理面と平行近くになる.なお,古琵琶湖層群中には,厚さが異なる地層が何枚かあり,地層が堆積中に断層活動があったことがわかる.

     では,表層が水の場合ではどうでしょうか.
     水の場合も,地層と同様な変形がおこっているはずです.それが周囲に津波として伝わっていくはずです.



     実際の津波では,インド洋津波で,相対的に上昇側のプーケットで引き波から始り,相対的に沈み込む側のインド洋の対岸で高波から始る津波が押し寄せていますし,今回の大地震による津波でも,石巻市で撮影された津波の様子でも,押し寄せてくる津波の前に,海水が引いたことが,撮影者のナレーションでも語られています.
     盛り上がった地表(水面)部では,このような変形・運動によって,引っ張りの力が生じます.そのため,地層の場合には,陥没構造をなす複数の正断層ができます.水の場合も同様に,正断層が...断層はできないので,撓曲として凹みます.水の場合には,その後で,凹んだ部分を埋めようと水が動くので,それによって,逆に盛り上がります.しかも,単に盛り上がるだけでなく,両側から流れ込んだ水同士がぶつかり合って,あたかもミルクの王冠の中心部のように,上向きに激しく突出しますす.これが崩れて,高い流れとして周囲に広がっていくわけです.



     このような運動によって,海底の地下で地震が起こり,陸側の海底面が上昇したとすると,沖側に海水が発射されるように運動し,逆に陸側では,盛り上がり側に向かう運動(引き波)に始まり,次いで,大きな盛り上がりと突出部の崩壊による押し波が押し寄せてくることになります.



    【津波被害地の土地利用の変遷】

    ●気仙沼地域
     下の図は,気仙沼市街値周辺について,現在と過去の水陸分布の差分を示した図です.
     左は,伊能忠敬の地図(
    http://www.gsi.go.jp/MAP/KOTIZU/sisak/ino-frm2.html)とGoogleMapとの差分を示した図で,伊能図で海域となっていたものがGoogleMapで陸域(市街値)となった地域を赤で表示しています.
     中央は,米軍空中写真(USA-M638-48(1947/11/11撮影)とGoogleMapとの差分を示した図です.西側から流れ出る大川河口付近の黄緑の範囲は,米軍空中写真では(干拓によってできた)水田として示されている地域で,ピンク色の地域が1947年11月から現在までに埋め立てられて陸地化した地域です.
     右は,米軍空中写真(USA-R431-12(1947/10/31撮影)とGoogleMapとの差分を示した図で,ピンク色の範囲が,1947年11月以降現在までに埋め立てられた範囲です.

          

    文 献
  • 気象庁(2011)平成23年3月11日14時46分頃の三陸沖の地震について(第2報).http://www.jma.go.jp/jma/press/1103/11c/201103111620.pdf
  • 川辺孝幸(1990)三重県上野市東部の古琵琶湖層群にみられる喰代撓曲の形成過程.地質学論集,34, 57-68.
  • 川辺孝幸(1995)断層と原発.第21回原子力発電問題全国シンポジウム講演集,42-46.
  • 川辺孝幸(2005)地質現象としてとらえた津波の発生機構.構造コロキウム.
  • 川辺孝幸(2009)2007年新潟県中越沖地震の地震活動の特徴と地質学的要因について.地球科学,63:289-3905.



    [更新履歴]

        2011/03/14 04:50 公開
        2011/03/14 13:10 自宅の地質情報を追加
        2011/03/14 20:10 津波に関する文献名修正と発表PPT(HTML版)を追加
        2011/03/15 23:20 2011年03月01日〜03月12日の震央分布アニメーションを追加
        2011/03/16 01:10 2011年03月11日本震以降の震央分布を,03月14日までのものに更新
        2011/03/21 09:50 津波被害地の土地利用の変遷,気仙沼地域を追加
        2011/03/22 00:35 津波は水の撓曲に,引張域での上向きの突出部の形成を追加
        2011/03/27 02:45 仙台平野主部における微地形と津波の到達範囲の概略を追加
        2011/03/27 10:45 仙台平野主部における微地形と津波の到達範囲の概略のPDF版で,仙台東部道路および常磐自動車道が出力されていなかった不具合を修正
        2011/04/03 03:00 山形県内の被害調査報告を追加(中山町長崎,天童市高擶)
        2011/04/24 23:00 仙台平野南部〜南相馬の津波の到達範囲の概略を追加,同仙台平野主部の仙台南部道路の開口部を塗り分け

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