山形大学地域教育文化学部生活総合学科生活環境科学コース地学(川辺)研究室
2008年岩手・宮城内陸地震地質災害調査報告

宮城県大崎市鳴子温泉鬼首寒湯地区の陥没について

山形大学地域教育文化学部生活総合学科 川辺孝幸
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調査日

 2008年6月17日.

調査位置

 宮城県大崎市鳴子温泉鬼首寒湯地区

調査位置図

第1図 調査位置図 国土地理院発行1/25000地形図『軍沢』を使用した.


陥没位置図

第2図 陥没・白濁湧水位置図 赤丸:陥没,青丸:白濁湧水.国土地理院発行1/25000地形図『軍沢』を使用した.


被害の概要

 鬼首カルデラ北西部の宮城県大崎市鳴子温泉鬼首寒湯(ぬるゆ)地区は,80年以上前から水田や住宅の前などに直径10m前後,深さ10m前後の陥没がたびたび生じて深い穴が発生している.2002年までに確認された穴の数は,20数箇所を数える.これらの古い陥没穴は,現在は湿地になっている(写真1).

 最近では,1996年の鬼首地域を中心とする群発地震の際に発生し,さらに,2001年7月には,地震や集中豪雨などがあるわけでもないのに,突然住宅前が陥没して,停めてあった軽自動車と電柱もろとも落ち込んで,直径11m,深さ7mの穴が開いた.穴は,その後約地表から約3mまで白濁した濁り水で満たされた.車は穴の中で捜索されたが発見できずに,穴は埋め戻された(写真2〜4).大きな陥没穴は,寒湯地区東側の寒湯沢の県道にかかる橋から約50m上流にある堰堤の下流側にもできた(写真5).


写真1 水田に過去にできた陥没穴の状況.現在は湿地になっている.



写真2 2001年7月に住宅前にできた陥没穴の状況

写真3 陥没穴の壁面には段丘礫層(西側からの猪ノ倉沢の扇状地堆積物?)が露出している.



写真4 陥没穴を埋める人頭大の礫(2001年7月19日)
写真5 寒湯沢の堰堤の下流にできた陥没穴.


 穴が多発する場所は,段丘崖(沖積段丘?)の直上もしくは直下に沿っており,地表からはわからないが,段丘礫層の基盤となっている鬼首カルデラのガラス質火山灰からなる堆積物が段丘地形に沿って崖を作っていて,そのカルデラ堆積物が地下水の流れによって浸食されて空洞ができたのではないかと考えていた(2001年の調査の考察;2001年8月下旬,テレビ東京『東京うわさのチャネル』で放送).

 今回の地震によって,2001年7月に住宅前にできた陥没穴が再び陥没して直径約9m,深さ約6mの穴が開いた.そのほか,段丘崖より下にある牛小屋の南部で東西15m,南北最大約6mの陥没が新規に発生し,牛小屋の北側の1996年に発生した陥没部が再度陥没し,合計3地点で陥没穴ができた.
 住宅前の陥没穴は,地震当日の午前10時前の3回目の大きい地震の際にできたということである.これに対して,他の2つは本震によってできたということである.
 このほか,陥没自体はみられないが,火山灰を含む白濁した湧水が,寒湯沢の堰堤直下や,県道の東側の寒湯沢右岸の水田の土手などで湧出している.


住宅前の陥没穴

 今回の地震によって陥没してできた穴は,直径約9m,深さ約6mで,前回に比べるとわずかに小さく,浅い.
 陥没壁を観察すると,壁面の西側部分には段丘礫層が露出している.それ以外の部分には,前回の陥没穴の埋め土が露出していて,それらが段丘礫層に対してアバット不整合で接している様子が観察できる.
 前回の陥没の際には,下半部を人頭大の礫を多量に埋めたが(写真3,4),今回の壁面では,写真4のように,東側壁面の最下部の水面直上に,その最上部が見えている.
 埋め土からなる南側壁面は崩壊を免れているが,路盤には亀裂ができて落ちかかっている.また,陥没穴の東側は前回の埋め土が分布しているが,陥没穴の約2m東側の地表部に引張割れ目ができていて,現時点では落ち込んではいないが,今後の余震等で崩壊もしくは陥没する可能性は否定できない.



写真6 寒湯地区のうち,今回陥没穴が発生した地域の遠景

写真7 2001年7月に住宅前にできた陥没穴が再び陥没した場所



写真8 前回の陥没穴が再び陥没してできた穴

写真9 今回陥没した穴は,前回の埋め土が抜けてできている.埋め土は地形的に低位の東側に抜けていったとみられる.



段丘崖下の牛小屋南部の陥没穴

 住民が知る限り,今回の地震によって初めて陥没してできたほぼ南北方向の穴で,南北約15m,東西最大約6m,深さは不明である.本震によってできたということである.被災当時,牛は小屋の中にいたが,居場所は小屋の北側部分で,幸いにも被災を免れた.
 陥没穴には水が充満している.水は,調査時点では,やや白っぽい茶褐色の濁り水である.



写真10 本震で陥没した段丘崖下の牛小屋南部の陥没穴

写真11 基礎がしっかりしているせいか,建物には影響が及んでいない.



写真12 陥没穴の北部の様子

写真13 牛小屋部分の陥没穴の様子.



写真14 陥没穴を牛小屋内部から見た様子

写真15 陥没穴の南部の様子.



段丘崖下の牛小屋と民家の間の道路脇の陥没穴

 1996年の地震で陥没してできた穴で,直径約6mで,今回は割れ目を伴って最大約1m程度窪み,深い穴の出現には至らなかった.本震によってできたということである.
 陥没穴には白濁した水が溜まっている.



写真16 本震で陥没した牛小屋と民家の間の道路脇の陥没穴(牛小屋の敷地側から)

写真17 本震で陥没した牛小屋と民家の間の道路脇の陥没穴(民家側から)



写真18 陥没穴の西側の様子.円弧状の割れ目が同心円状にできている.

写真19 陥没穴の西側の様子.円弧状の割れ目が同心円状にできている.



写真20 一番内側のものが撓曲して穴をつくっている.

写真21 穴には白濁した水が溜まっている.



火山灰の混じった白濁した湧水

 陥没穴はできていないが,火山灰の混じった白濁した湧水の噴出が,第2図に示す3か所で確認できた.水田脇のもの(写真28, 29)と県道248号(沼倉鳴子線)東のもの(写真24,25)は,これまで確認されていなかった場所で,今回の地震で新たに現れた湧水である.寒湯沢の堰堤の下流のものは,2001年に住宅前の車が落ちた陥没と同時期にできた陥没穴の場所で,今回は陥没は起こらなかったものの,火山灰の白濁した湧水が噴砂丘をつくって噴出している.



写真22 水田脇の白濁した湧水の湧出箇所.南側の一段低い畑として利用している土地の西の用水の脇から湧出している.

写真23 畑脇の用水の西側の土手の基部(写真右側)から湧出している.



写真24 寒湯沢の堰堤の下流の火山灰を含む白濁した湧水の状況.

写真25 2001年の陥没の際に埋められた蛇籠と床固工との間や,蛇籠の下流側で多量に湧出している.堰堤の北部では床固工のコンクリートの打ち繋ぎ部分からも湧出している.



写真26 堰堤の床固工のコンクリートの打ち繋ぎ部分からも湧出している.

写真27 蛇籠の下流では噴砂丘をつくって火山灰を含む白濁した湧水が湧出している.



写真26 堰堤の右岸側の取り付け部は強震動で破断している.

写真27 .堰堤の右岸側の破損部を堰堤方向(東北東方向)に眺めた状態.



写真28 寒湯沢より東側の愛宕神社前の県道248号線東側の水田に湧出する,火山灰を含む白濁した湧水.

写真29 県道沿いの水田より一枚低い位置の水田に流れ込む火山灰を含む白濁した湧水.



陥没穴と火山灰の混じった白濁した湧水の原因

 すでに記したように,2001年当時は,陥没の発生原因は,住宅地が建つ段丘堆積層の地下の鬼首カルデラのガラス質火山灰からなる堆積物が,北側の山地部から流れ込む地下水によって侵食されて空洞ができたためではないかと推定した.
 空洞の規模は,少なくとも直径11m,厚さ7m以上の体積の堆積物が自動車もろとも吸収されるだけの容積が必要であり,地下で,その空間ができるだけのガラス質火山灰が流出して空間をつくる必要がある.しかし,地表には,地形的に最も低い江合川河床にも火山灰が流出した形跡はなく,しかも河床には部分的に鬼首カルデラの堆積物が露出している.
 住宅の建つ段丘面と江合川との比高は15mに満たず,陥没穴で見られた段丘堆積層の厚さ7m以上を差し引くと,段丘堆積層下の鬼首カルデラの堆積物上面の現河床との比高7mに満たない.なにより,段丘崖より低位の沖積面の陥没穴の場合には,さらに比高が小さくなる.

 今回の地震でも,前回車が消失した陥没穴が再び陥没した.
 前回の際に窪みを埋めたが,今回の地震までに,また,再び直径9m,深さ7m分の容積の堆積物が落ち込むだけの空間ができたわけで,前回落ち込んだ車や段丘堆積層を作る堆積物は,今回の本震後3回目の余震までの間に,地下の別の空間に移動したことになる.

 前回も同じであるが,今回の場合にも,火山灰を含む白濁した湧水が湧出している.しかし,その量は,落ち込んだ容積に比べて圧倒的に少ない.
 したがって,前回の陥没の際には,長時間かけて侵食がゆっくり進んだと考えていたが,前回から今回の経過を考えると,ある地質時間を通して,現在までに,すでに地下にかなりの規模の空洞が形成されていると考えざるを得ない.
 その場合でも,地下から,どのように空洞を作るだけの火山灰が流出していったのかが問題になる.


地下の空洞の把握とメカニズムの解明が必要

 いずれにしても,前回から今回までの経過からすると,寒湯地区には,現在地下に大規模な空洞が存在していることだけは明らかであろう.新たな白濁した湧水の湧出箇所からすると,今後の状況によっては,県道248号自体も陥没の被害にあう可能性がある.
 空洞の規模の把握とメカニズムの解明によって対策をおこなう必要がある.

(2008年6月19日記)

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